• 検索結果がありません。

B -3) 総説

西田雄三 , 「酸素添加酵素における酸素分子の活性化に及ぼす基質の役割」, 日本化学雑誌 794 (1998).

B -7) 他大学での講義

山形大学理学部 , 「生体無機化学」, 1998 年 4 − 9 月 .

C ) 研究活動の課題と展望

金属錯体による酸素分子の活性化の機構の解明に全力をいれ,努力してきた。その結果,従来にない新しい機構 を提案できた。これに基づいて研究を進めているが,その過程で反応生成物の同定に必要な装置が無いことがネッ クとなっている。なんとかしてその装置を手にいれ,研究の発展を期したいと思っている。

*)1998年4月1日着任

櫻 井   武(助教授)

*)

A -1)専門領域:生物無機化学、生化学、錯体化学、生物物理学

A -2)研究課題

a) マルチ銅オキシダーゼの活性中心と反応機構 b) ブルー銅タンパク質の電子移動反応

c) NO リダクダーゼの分子構造と機能

A -3)研究活動の概要と主な成果

a) ラッカーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼの三核銅クラスターにおける酸素の4電子還元機構を明らかにす ることを目的として,還元型酵素と酸素の反応過程を分光学的かつ速度論的に検討した。酸素の3電子還元体に 相当するオキシルラジカルおよびヒドロキシルラジカルを,ストップトフロー,EPRによって検出することに成 功し,SQUID測定によってキャラクタライズした。この中間体は1対のタイプ3銅と3スピン系を形成しており,

プロトン移動とカップルしたタイプ2銅からの電子移動によって消失することを明らかにした。これら一連の研 究によって,酸素の4電子還元機構を提唱するに至った。また,ビリルビンオキシダーゼの有する全てのタイプ の銅への配位グループに対するミューテーションを行い,初めてマルチ銅オキシダーゼのミュータント作成に成 功するとともに,各銅結合部位の役割を明らかにした。

b) 様々の非共有的相互作用しうるグループを有した光学活性 R u 錯体を分子設計し,アズリンとの電子移動反応を 行った。アズリンのレドックスカップル認識機構について検討するとともに,不斉選択的な分子間相互作用に基 づく電子移動を実現し,人工的な系でも高度の選択性を発現できることを示した。

c) 脱窒菌による硝酸イオンから窒素への変換による呼吸鎖の理解と NO の代謝を理解する目的で,NO リダクターゼ の単離し,そのキャラクタリゼーションを行った。この酵素は膜結合性コンプレックスであり,低スピンヘムc,

低スピンヘムb,高スピンヘムbと非ヘム鉄を有していることを明らかにした。前者2つの鉄中心は電子伝達部 位であり,後者2つの鉄中心は複核構造を取っており,反応中心であることがわかった。ゲノミッククローニン グを行い構造遺伝子配列を決定し,本酵素がチトクロムオキシダーゼの先祖酵素であることを確認した。また,反 応プロトン輸送経路を特定し,分子進化に伴う活性中心の構造と機能変化を提唱した。

B -1) 学術論文

N. SAKURAI and T. SAKURAI, “Isolation and Characterization of Nitric Oxide Reductase from Paracoccus halodenitrificans,” Biochemistry 36, 13809 (1997).

N. SAKURAI, H. KUMITA, T. SAKURAI and H. MASUDA, “Spectral Properties of Cytochrome c553 and a Membrane-Bound Cytochrome b from Alcaligenes xylosoxidans GIFU 1051,” Bull. Chem. Soc. Jpn. 71, 135 (1998).

N. SAKURAI and T. SAKURAI, “Genomic DNA Cloning of the Region Encoding Nitric Oxide Reductase in Paracoccus halodenitrificans and a Structure Model Relevant to Cytochrome Oxidase,” Biochem. Biophys. Res. Commun. 243, 400 (1998).

S. HIROTA, H. MATSUMOTO, H. HUANG, T. SAKURAI, T. KITAGAWA and O. YAMAUCHI, “Observation of

Cu-N3- Streching and N3- Asymmetric Streching Bands for mono-Azide Adduct of Rhus vernicifera Laccase,” Biochem. Biophys.

Res. Commun. 243, 435 (1998).

H. HUANG, T. SAKURAI, H. MOMJUSHIRO and S. TAKEDA, “Magnetic Studies of the Trinuclear Center in Laccase and Ascorbate Oxidase Approached by EPR Spectroscopy and Magnetic Susceptibility Measurements,” Biochim. Biophys.

Acta. 1384, 160 (1998).

S. SUZUKI, DELIGEER, K. YAMAGUCHI, K. KATAOKA, S. SHIDARA, H. IWASAKI and T. SAKURAI,

“Spectroscopic Distinction between Two Co(II) Ions Substituted for Types 1 and 2 Cu in Nitrite Reductase,” Inorg. Chim. Acta 275-276, 289 (1998).

T. SAKURAI, N. SAKURAI, H. MATSUMOTO, S. HIROTA and O YAMAUCHI, “Roles of Four Iron Centers in Paracoccus halodenitrificans Nitric Oxide Reductase,” Biochem. Biophys. Res. Commun. 251, 248 (1998).

C ) 研究活動の課題と展望

マルチ銅オキシダーゼのタイプ2,3銅からなる三核銅クラスターは末端酸化酵素におけるヘム−C u中心ととも に生体系において酸素を水にまで4電子還元する部位であるが,その構造および機能の解明が難航しており,な かなかブレークスルーができなかった。われわれは,酸素の4電子還元中間体の一つを初めて検出することに成 功し,キャラクタライズした。この成果によって,さらに前段階の反応中間体の構造を推定できるようになり,こ れを実証することが今後の課題であるが,末端酸化酵素とは異なり銅イオンのみによって酸素を4電子権限する 機構の全貌解明への道が開拓された。また,ビリルビンオキシダーゼの全ての銅結合部位へのミューテーション を実現し,いくつかのミュータントが酵素活性を保持していることを発見したことにより,今後の構造・機能相 関解明に弾みがつくものと期待される。電子移動タンパクと低分子化合物との研究例は多くあるが,様々の非共 有的相互作用が可能なレドックスカップルとの一連の反応は検討されておらず,生体系における極めて高度の分 子認識メカニズムの解明に光明を与えるものである。単離することに苦労した NO リダクターゼに関する研究は,

ひととおりのキャラクタリゼーションを終了したことで一段落し,今後は分子進化という観点から,研究を展開 する段階に来ており,スケールの大きなテーマとして発展できる可能性を秘めている。

*)1998 年4月1日金沢大学大学院自然科学研究科助教授

辻   康 之(助教授)

*)

A -1)専門領域:錯体触媒化学

A -2)研究課題:

a) 遷移金属シリルおよびスタニル錯体の構造とそのフラクショナルな挙動に関する研究 b) 有機ケイ素化合物の特性を活かした新規触媒反応の開発

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 我々は以前にビス(スタニル)ビス(ホスフィン)白金錯体がねじれた平面4配位構造を有し,分子内回転をそ の原因とするフラクショナルな挙動を示すことを明らかにした。その後,我々はこのフラクショナルな挙動がビ ス(シリル)ビス(ホスフィン)白金錯体,さらにビス(スタニル)ビス(ホスフィン)パラジウム錯体に対し ても認められることを明らかにした。

b) 我々はこれまでにケイ素の酸素親和性を活かした新規錯体触媒反応を開発してきた。今回,トリメチルシリルシ アニドをシアノ化試剤として用いるアリルエステル類のシアノ化反応とその反応機構を明らかにした。反応の選 択性は極めて高く,中間体のπ - アリル種を触媒中心金属上のシアノ基が触媒金属側から攻撃することを明らか にした。

B -1) 学術論文

Y. TSUJI, T. KUSUI, T. KOJIMA, Y. SUGIURA, N. YAMADA, S. TANAKA, M. EBIHARA and T. KAWAMURA,

“Palladium-Complex-Catalyzed Cyanation of Allylic Carbonates and Acetates Using Trimethylsilyl Cyanide,” Organometallics 17, 4835-4841 (1998).

Y. TSUJI, K. NISHIYAMA, S. HORI, M. EBIHARA and T. KAWAMURA, “Structure and Facile Unimolecular Twist-Rotation of cis-Bis(silyl)bis(phosphine)platinum and cis-Bis(stannyl)bis(phosphine)palladium Complexes,” Organometallics 17, 507-512 (1998).

B -4) 招待講演

辻 康之 , 「ジスタニルおよびジシリル遷移金属ホスフィン錯体の構造とフラクショナルな挙動」, 第16回有機 合成化学夏季大学 , 岐阜 , 1998 年 7 月 .

B -6) 学会および社会活動

触媒学会関西地区幹事(1997.1-).

C ) 研究活動の課題と展望

遷移金属シリルおよびスタニル錯体の構造とそのフラクショナルな挙動に関する研究に関しては,理論的な考察 が必要であり現在進行中である。また,実際の触媒反応との関連を明らかにしてゆく必要がある。また,有機ケ イ素化合物の特性を活かした新規触媒反応の開発に関しては,トリメチルシリルシアニド以外の試剤を用いる反 応についての展開を計画している。

*)1998 年 4 月 1 日着任,1998 年 10 月 16 日北海道大学触媒化学研究センター教授

錯体触媒研究部

塩 谷 光 彦(教授)

A -1)専門領域:生体分子科学

A -2)研究課題:

a) 生体高分子の再構築:金属錯生成により塩基対を形成する人工 D NA (D NAのアルファベット拡張化による遺伝 子発現制御)

b) 生体高分子の再構築:生体分子認識素子を担持した大環状ペプチド金属錯体

c) D NA 上に集積する自己集合型金属錯体 :金属アンチセンスによる遺伝子発現制御,D NA を取り囲む自己集合型 大環状金属錯体,鋳型 D NAの情報転写・複製システム

d) 金属酵素モデル:D NAポリメラーゼ様活性をもつ多核金属錯体の構築 e) 金属錯体を用いた抗ウイルス活性化合物の開発

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 生体高分子の再構築(金属錯生成により塩基対を形成する人工 D NA ):D NA は核酸塩基間の相補的な水素結合に より二本の鎖が特異的に会合し,塩基対間のスタッキングにより二重らせん構造を形成する。この水素結合によ る会合力を他の力に置き換えることにより,どのような機能の発現が期待できるだろうか。本研究では,D NA の アルファベットを拡張することによる遺伝子コントロールを目指し,金属錯生成により塩基対を形成する人工 D N A を 設 計 , 合 成 し た 。 こ の 人 工 D N A で は , 天 然 の 核 酸 塩 基 に 代 わ り , 金 属 イ オ ン と 錯 体 を 形 成 す る o-phenylenediamine,catechol,o-aminophenol などを導入することにより,水素結合ではなく金属錯生成により塩基 対を形成する。よって,金属イオンの種類,酸化数,濃度などによって,D NA 二重らせん構造の安定性や高次構 造が大きく変化すると考えられ,遺伝子発現制御への応用が期待される。今年度は,上記3種の配位子型ヌクレ オシドの合成ルートを確立し,アミダイト法およびトリエステル法によるオリゴヌクレオチドの合成を検討中で ある。

b) 生体高分子の再構築(生体分子認識素子を担持した大環状ペプチド金属錯体):環状ペプチドは,これまで主に生 理活性物質(イオノフォア等)として注目され,その構造・機能相関に興味が持たれてきたが,合成的な観点か らみると,一般的に環化反応の収率が低いため,環状ペプチドを用いる生体機能の制御あるいは機能性分子の創 製は立ち遅れていた。本研究では,金属キレート能を有するシステインと,グリシンの繰り返し配列を持った直 鎖状および環状ペプチドを非常に高い収率で合成することに成功した。本手法が,金属錯体の種類やアミノ酸の 種類に関わらず適用できる手法であれば,様々の環状ペプチド金属錯体の合成が可能となる。本研究で合成され た環状ペプチド金属錯体は,環状ペプチド構造に加え,正電荷を帯びた金属錯体部分をもつので,水素結合や電 荷相互作用により,アニオン種の認識が可能であると期待された。実際,円二色性スペクトルにおいて,様々な アニオン種(無機イオン,有機アニオン,D NA )の存在下で強いシグナルが誘起された。これは,アニオン捕捉 によるホスト分子の大きな構造変化に伴うものであり,ダイナミックなアニオンセンシングに適用できるであろ う。

関連したドキュメント